非適格合併における個人株主の課税関係とその注意点

元気がある中小法人の中では、会社を複数保有して、事業を広げていく事が大好きな、非常に熱がある社長さんが多くいらっしゃます。

その事業を進めていく中で、しばしば会社同士の「合併」が行われます。

 

親会社や子会社、孫兄弟会社との合併にとどまらず、全く赤の他人の会社との合併もよく行われます。

 

中小法人のオーナー(株主)は、会社の社長さん、そのご家族一族などの、いわゆる同族関係者である傾向が強く見られます。

そういった環境下で合併を行う場合、注意すべき点は「株主に対する個人課税」です。

 

株主が個人である場合、思わぬ所得税等の負担が発生する事がある為、合併における個人株主の課税関係とその留意点ついて説明します。

 

 

 

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税務上の合併の分類

一般的な合併(吸収合併)は、合併法人(残る会社)、被合併法人(消滅する会社)、そして被合併法人の株主、3者が合併の当事者です。

 

合併の種類には、「適格合併」「非適格合併」があります。

まず合併の税制種類について、ざっくりと簡単に触れておきます。

 

合併が行われると、被合併法人は合併法人に対し、全ての資産を「簿価」で移転します。

次に、合併法人から移転した資産の対価(合併法人の株式等)を受け取ります。

更に資産を移転して対価を受け取る時に、課税が発生します。

① 適格合併

適格合併のモデルは下記のようになります。

 

 

 

 

 

資産移転よる対価(収入)は簿価であり、当然損益は発生しません。

 

合併当事者3者についても、何ら課税は発生しません。

 

② 非適格合併

非適格合併の場合、被合併法人は合併法人に対し、全ての資産を「時価」で譲渡します。

 

 

 

 

 

資産移転よる対価(収入)は「時価」であり、譲渡による損益が発生します。

 

合併当事者3者の間では、様々な課税関係が発生します。

 

以下、合併におけるそれぞれのモデルケースやみなし配当については、次を記事を参考にしてください。

→ (2019.06.17合併における基本的な税務会計の流れについて

 

③ 合併における個人株主課税

上記のリンクより、合併で大きな影響を受ける当事者は株主です。

 

株主に対する課税関係については、下記の通りです。

 

 適格合併非適格合併
合併法人株式のみ交付課税関係はなしみなし配当課税
金銭等を交付(H29年改正)株式譲渡課税みなし配当&株式譲渡課税

 

非適格合併が行われる場合には、個人株主には「みなし配当」と「株式譲渡課税」が生じます。

 

下記にて非適格合併が行われる場合の、個人株主の課税関係の詳細についてみてきます。

 

(※H29改正、金銭交付型の適格合併については省略します。)

非適格合併【金銭交付】モデル

【前提】

・被合併法人A社の株主はB1人

・株主BはA社株式を簿価300で保有

 

 

 

 

 

 

① 被合併法人A社は合併対価時価900を金銭で受け取ります。

 

② 被合併法人A社は合併対価金銭900を株主Bへ交付します。

 

株主Bにとっては、対価交付直前のA社のB/Sの資本金等部分400が株式譲渡対価利益積立金部分500がみなし配当となります。

 

 

◇ ポイント ◇

金銭交付型の非適格合併は、被合併法人の株主に、みなし配当課税及び株式譲渡損益が発生する。

非適格合併【合併法人株式交付】モデル

【前提】

・上記と同様です

 

 

 

 

 

 

① 被合併法人A社は合併対価900を合併法人株式で受け取ります。

 

② 被合併法人A社は合併法人株式900を株主Bへ交付します。

 

株主Bにとっては、交付直前のA社のB/Sの利益積立金部分500がみなし配当となります。

 

合併対価が合併法人株式以外のものがない非適格合併の場合、株式譲渡対価は、株主Bが保有するA社株式の簿価300となり、譲渡損益は発生しません

 

◇ ポイント ◇

・合併法人株式以外の交付がない非適格合併は、被合併法人の株主に株式譲渡損益は発生

 しない。

・合併対価に換金性がないにもかかわらず、みなし配当が発生してしまう。

個人株主が合併対価を受け取った場合の留意点

中小法人の株主は会社の社長一族が占める傾向にあります。

 

また、社長一族の株主の中には、実際にはその配偶者、高齢の両親、同族会社には席を置かず、一般企業に勤めるご家族も多くいらっしゃいます。

 

突然高額なみなし配当や、株式譲渡益が発生した場合、次のような事が実際に起こりえます。

 

◇ 注意点 ◇

・合併のみなし配当は多額になることがあり、個人において多額の配当所得が生じる。

 

・みなし配当は非上場の場合20.42%源泉徴収される。

 →(確定申告する事により源泉徴収は取り戻せることもある)

 

・対価が換金性のない株式の場合でも、みなし配当と源泉徴収は発生する。

 

・所得超過により所得税扶養控除の適用不可となる場合がある。

 →(社長の配偶者が株主の場合に注意する)

 

・所得超過により社会保険の扶養から除外されることもある。

 →(国民健康保険や国民年金に加入して支払う為、家計の負担増)

 

・個人市民税の負担増加。

 →(支払調書により市は把握することができる)

 

・国民健康保険、後期高齢者保険、介護保険料の負担増。

 →(所得が増えれば確実に連動して増加する)

 

・医療費の負担割合が1割、2割から3割になる事もある。

 →(医療費負担増があった場合、その割合は1年続く)

 

・所得税率がアップする。

 

・みなし配当10万円超は確定申告が義務。

 →(支払調書により国や市役所にはバレばれる事が多い)

 

・みなし配当は確定申告で配当控除を受けることが可能(税金を取り戻せる)。

 

・株式譲渡損は他の所得と相殺できない。

 

個人株主が合併対価を受け取った場合、即座に本人の所得に影響します。

 

国保等や年金、医療費の関係については多額になるケースもあり、家計を圧迫します。

 

合併対価受け取り時には、自身に影響がある範囲内について相談される事を薦めします。

注意事項

・ここでは被合併法人の株主から合併法人の株主に対する贈与については触れていません。

・無対価合併でない場合、必ず合併比率が適正かどうかが問われます。

・合併比率が適正でないと見なされた場合には、株主間の贈与が発生します。

まとめ

非適格合併が行われた場合、個人株主は大きな課税の影響受けます。

特にみなし配当は多額な課税所得になる事もあり、その影響は所得税に留まらず、国保等や医療費、年金にまで及びます。

 

中小法人で合併を行う場合には、株主への影響が出来るだけ少なくなるよう、適格合併を行うことが望ましいと感じます。