教育資金の一括贈与の非課税制度の改正。23歳到達時までは相続税も贈与税もかからない。
平成25年4月から始まった人気のある制度「教育資金の一括贈与非課税措置」について、
平成31年に税制改正で若干の変更点がありました。
非課税措置の適用には税理士が直接関与せずとも、金融機関窓口で手続きが可能な為、
比較的容易に非課税贈与が可能な非常に便利な制度でした。
今回、従前の制度と比べて微妙に改正が行われましたが、
それ程使い勝手が悪くなったわけではありません。
教育資金非課税贈与の制度の概要と、そのメスが入った部分について、
今回はザックリ説明をします。
all painted by Ryusuke Endo
Contents・目次
改正前の教育資金の一括贈与非課税措置の内容
従前の教育資金一括贈与とは、次のようなモデルでした。
① おじいちゃん、おばあちゃんが孫に1500万円を一括で贈与します。
(銀行窓口であれば、どこでも申し込むことができます。)
② 学校の入学金や授業料、学用品購入など、「学校等」へ支出されます。
③ 塾やスポーツ、ピアノやその他習い事など「学校等以外の者」へ支出されます。
④ 孫が30歳に達した時、贈与を受けた金額から教育目的のみの支払いを控
除した残額部分について、孫に対して贈与税が課されます。
ここではとっても大きな節税のポイントがありました。
それは、0歳の孫に贈与すれば、祖父母は相続税がかからずに、
また孫は最大30年間、贈与税の課税を先延ばしすることが可能でした。
祖父母は1500万円を確実に自身の財産から、切り離すことが可能でした。
例え30歳に到達しても、使い残しや教育関係以外の使用(例えば旅行に使ってしまうなど)
がなければ、贈与税はかかりませんでした。
贈与されたお金を全て教育関係に使ってしまえば、相続税も贈与税もかからないという、
非常に節税効果が高い、富裕層に人気がある制度でした。
お孫さんが多くいらっしゃる方であれば、その節税効果は一層高かったと思います。
◇ 注意点 ◇
・贈与対象者の年齢は必ず30歳未満に限ります。
・30歳に達した時に使い残しがあれば、30歳到達時に贈与税がかかります。
・教育関係以外の支出をした場合でも、使い残しとみなされて30歳到達時に贈与税が
かかります。
・贈与の契約は金融機関で申込み、30歳到達時にも金融機関で終了の手続きをします。
・金融機関では教育資金使用した部分と教育以外で使用した部分の計算書をもらい、
教育以外の使用については使い残しとして、贈与税の申告をします。
・お稽古や習い事(学校等以外の者)に対する支払いは、500万円までが教育関係の
支払いとされます。
新しい教育資金の一括贈与非課税措置の内容
新しいの教育資金一括贈与とは、次のようなモデルになります。
① おじいちゃん、おばあちゃんが孫に1500万円を一括で贈与します。
→改正1(孫の合計所得は1000万円以下に限られます。)
② 学校の入学金や授業料、学用品購入など、「学校等」へ支出されます。
③ 塾やスポーツ、ピアノ、その他の習い事など、「学校等以外の者」へ支出されます。
→改正2(23歳到達時翌日以降は教育訓練給付金対象講座のみ)
④ 孫が30歳に達した時、贈与を受けた金額から教育目的のみの支払いを控除した残額部
分につき、孫に対して贈与税が課されます。
→改正3(30歳以上でも、学校等に在学していたり、教育訓練給付
金対象講座を受講していれば、最長40歳到達時まで、卒業等や講
座終了までは贈与税は課されません。)
上記の改正については、それ程大きな影響はないように感じますが、
最も影響がある改正事項はこれです!
⑤ 改正4
祖父母が孫に贈与して3年以内に亡くなった場合、使い残しがあ
れば、相続財産となり課税されるようになりました。
(祖父が亡くなった時、孫が23歳未満の場合や、学校に在学中の場合
また教育訓練給付金対象講座を受講中であれば除かれます)
新しい教育資金一括贈与制度では、少なくとも孫が23歳(若しくは在学中まで)に
到達するまでの間は、相続税がかからず、贈与税の支払いも延ばすことができます。
改正の経緯
今回の改正は、言うまでもなく、教育資金一括贈与の非課税措置が、相続税の節税対策に利用さ
れている現状があったからです。
祖父母が亡くなる間際に1500万円贈与してしまえば、1500万円は相続財産からは切り離され、
例え学校教育関係に使用しなくても、孫は30歳になるまでの間は、とりあえず贈与税の課税を
回避することが出来ました。
しかし、本来の制度の趣旨は節税効果の為ではありません。
高齢者が抱える資産移転を流すこと、また教育資金として使用してもらう目的でした。
今回、相続対策の節税目的防止の観点から、祖父母が亡くなる前3年以内に教育資金一括贈与を
した場合、亡くなった時の使い残し残について、孫は相続により祖父母からいただいた事とされ
ます。
改正による影響
1、贈与を受ける人が、前年の合計所得金額1000万円以下である影響
主として学生生活を送る孫であれば、所得が1000万円を超えることはまずないと思えます。
それほど大きな影響は考えられません。
2、23歳以上の方の習い事等は、教育訓練給付金対象講座に限られた影響
キャリアプランや自己啓発を促進のため、専門性が強い講座に限られたと感じます。
23歳以降であれば、仕事をしながら資格取得費用講座を受講する方もおり、真っ当な
改正かもしれません。
3、贈与から3年以内に祖父母が死亡した場合、死亡時の使い残し残が、孫が相続により取得したこととなる影響。
孫が23歳未満であったり、在学中や教育訓練給付金対象講座であれば適用除外です。
多くの方が、小学校や中学、高校、大学の就学前に贈与を受けると思います。
元々の制度の趣旨は、学校教育関係に支出する為の贈与資金です。
一般的に、教育関連支出が多い大学卒業時までであれば相続財産とはされない為、
相続税回避目的でなければ、大きな影響はないと思われます。
上記の改正事項の適用時期
改正事項1 孫の所得制限
→ 2019年4月1日以降の贈与
改正事項2 23歳到達日翌日以降のお稽古ごとは教育訓練給付金対象講座のみ
→ 2019年7月1日以降に支払われる教育資金
改正事項3 30歳到達時以降も在学中や教育訓練給付金対象講座受講中であれば、
最長40歳を限度とし、それらの終了時まで贈与税がかからない
→ 2019年7月1日以降に孫が30歳に達する場合
改正事項4 贈与から3年以内に祖父母が死亡した場合、使い残しを相続財産とする
→ 2019年4月1日以降の祖父母の死亡
まとめ
相続対策の為に、教育資金一括贈与を行う方も多くいますが、
授業料や入学金をはじめとした教育関係に使用するお金の贈与については、
元々、贈与税がかからないとされています。
もちろん、祖父母から贈与を受けた金額を授業料や入学金に充当せず、
貯金をしてしまったら、それは純然たる贈与です。
手元に多くの資金がなく、けれどもお孫さんに教育関係の資金を工面したい場合には、
今まで通り、入学金など必要な分だけ、その都度贈与する方法も賢い方法です。
その際は祖父母から父母、孫の通帳の流れをはっきりとさせ、必ず記録を残しましょう。
そして、必ずお金をいただいた後に学校関係の支払いをするように、順序に気を付けましょう。
参考法令
租税特別措置法70の2の2、租税特別措置法施行令40の4の3、
租税特別措置法施行規則23の5の3
相続税法21の3