配当所得や株式譲渡所得を所得税と市民税で異なる課税方式を適用する際の注意事項

上場株式等や投資信託(以下、上場株式等)を運用される方に中には、毎年、配当所得や株式譲渡所得(特定口座)の確定申告をする方がいます。

 

平成29年の税制改正により、所得税では申告する、市民税では申告しないといった、異なる課税方式を採用する事が明文化されました。

 

そして令和3年分の確定申告から、所得税の確定申告書2表により、異なる課税方式を選択する事が可能となります。

 

しかし、異なる課税方式を選択した場合は、税務上の留意事項があります。

 

今回は、上場株式等の配当所得や株式譲渡所得(以下、配当等)を、所得税と市民税で異なる課税方式を適用する際の注意事項について、ざっくり説明します。

 

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市民税に配当控除の適用はない

国内株式や特定株式投資信託、一定のオープン型証券投資信託は、総合課税で申告することで、配当控除の適用があります。

 

国内株式の配当であれば、配当の10%を所得税額から差し引く事ができるため、大きな節税効果があります。

 

しかし、配当等を市民税で申告不要とした場合、市民税の総所得金額に配当所得は含まれないため、市民税では配当控除の適用はありません。

 

 

 

 

なお、配当控除は全ての上場株式等に適用があるわけではありません。

 

その適用対象の確認、その控除割合等は、目論見書により確認します。

 

外国税額控除は市民税でも適用がある

外国税額控除適用の為に、配当等を総合課税又は申告分離課税により確定申告(以下、確定申告)する場合があります。

 

しかし、配当等を市民税で申告不要制度を採用した場合、市民税で配当控除の適用はないため、外国税額控除も適用できないのではないか、疑問に思う方も多いようです。

 

所得税と市民税で異なる課税方式を採用した場合でも、外国税額控除は市民税で適用されます。

 

 

 

 

所得税の申告の際に作成する外国税額控除の明細書では、市民税の外国税額控除限度額・余裕額を計算し、翌年以後3年間繰越処理を行います。

 

よって、市民税で申告不要制度を採用しても、外国税額控除は市民税において適用されます。

 

なお、外国税額控除は総合課税でも申告分離課税でも適用可能ですが、その限度額が変化します。

 

株式譲渡損失・繰越損失額が所得税と異なる

株式譲渡損失や株式繰越損失がある場合、所得税と市民税でその金額が異なる場合があります。

 

例えば、その年に生じた株式譲渡損失と配当所得(特定口座)を所得税では申告分離課税により損益通算し、市民税では医療費負担増の理由により、申告不要制度を採用する場合です。

 

 

 

 

また、その年の配当所得と株式繰越損失を所得税では申告分離課税により相殺し、市民税では申告不要制度を採用する場合も同様です。

 

 

 

 

これらの場合、所得税と市民税では、株式譲渡損失や繰越損失が異なることになります。

 

なお、国外株式等を外国の証券会社を経由して売却した場合、その株式譲渡損失については、配当所得等と相殺や繰越損失の適用はありません。

 

また、一般口座で上場株式等を売却した場合は、必ず確定申告が必要です。

 

特定口座の譲渡損失は配当所得とセットで申告

特定口座の株式譲渡損失を申告する場合、必ず同口座内の配当所得とセットで申告(損益通算)する必要があります。

 

「株式譲渡損失のみ申告分離課税、配当所得は申告不要」にすることはできません。

 

 

 

 

上記は所得税だけでなく、市民税でも同様の制度です。

 

同一口座内の株式譲渡損失と配当所得は、必ずセット申告が強制されます。

 

医療費控除の額が異なる場合がある

所得税で医療費控除を受ける場合、その控除額は、支払った医療費から10万円を控除した金額です。

 

ただし、総所得金額が200万円未満の場合は10万円ではなく、総所得金額の5%になります。

 

しかし、配当等を市民税で申告不要制度を採用した場合、所得税と市民税で総所得金額が異なる為、医療費控除額が異なる場合があります。

 

 

 

 

市民税の医療費控除が異なる場合があることを、念頭に置いておく必要があります。

 

株式譲渡割額、配当割額の控除は受ける事ができない

株式譲渡所得や配当所得に対しては、5%の市民税が源泉徴収されます。

 

配当等を確定申告した場合、納めるべき1年間の市民税から、予め源泉徴収された5%の市民税(株式譲渡割額、配当割額)が控除されます。

 

しかし、市民税で申告不要制度を採用した場合、源泉徴収のみで課税は終了するため、株式譲渡割額、配当割額の控除はありません。

 

根拠法令

租税特別措置法第37の12の2(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除)

地方税法第32条第13項、15項(所得割の課税標準)

地方税法第313条第13項、15項(所得割の課税標準)

地方税法第第314条の9(配当割額又は株式等譲渡所得割額の控除)

まとめ

今回は、上場株式等の配当所得や株式譲渡所得(以下、配当等)を、所得税と市民税で異なる課税方式を適用した場合の注意事項について、ざっくり説明しました。

 

特に株式譲渡損失については、所得税と市民税でその額が異なる事を忘れてしまいがちです。

 

また、市民税で申告不要制度を採用しても、外国税額控除は適用されます。

 

所得税と市民税で異なる課税方式を選択した場合、影響が出る部分について、留意しておく必要があります。