居住用賃貸建物の基本的な考え方とその判定材料について。

収益力や預金に余裕がある事業者は、しばしば、賃貸用建物を取得することがあります。

 

事業用・居住用の賃貸物件や、自社利用・社員社宅用として取得することが殆どです。

 

ただし、消費税法では、令和2年に居住用賃貸建物の仕入税額控除について大きな改正がありました。

 

住宅用として建物を取得し賃貸する場合、現行の法令上、不明瞭な部分が多く、居住用賃貸建物に該当するのか、その判断に悩む方も少なくありません。

 

今回は、居住用賃貸建物の基本的な考え方とその判定材料についてザックリ説明します。

 

以下、法令において明確に定義されていない部分を含みます。

 

 

 

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店舗兼賃貸住宅の場合

1棟の建物において、その構造が1階商業用・2階住宅用の場合があります。

 

2階のみ居住用として賃貸し、1階は店舗として賃貸or自社事務所用として利用する場合です。

 

いわゆる店舗兼賃貸住宅です。

 

このような建物の場合、居住用賃貸建物の判定は1棟の建物全体で考えます。

 

建物全体が1,000万円超であれば、居住用賃貸建物かつ高額特定資産に該当します。

 

 

 

 

1階部分は店舗or事務所ですが、2階部分は住宅用として貸し付けることが明らかです。

 

しかし、1階商業用構造と2階住宅用構造を合理的に区分可能な場合、2階の居住用賃貸部分のみ仕入税額控除が制限されます。

 

 

 

 

 

 

合理的区分とは単純な面積按分ではなく、廊下・共用部分面積を考慮した使用面積や、1階と2階の構造に関する具体的な建設工事費用より按分する必要があります。

 

自宅兼賃貸住宅の場合

1棟の建物全体の構造が住宅用である一方、1階は自己の住宅、2階部分のみ居住用として賃貸することがあります。

 

いわゆる自宅兼賃貸住宅です。

 

このような建物の場合、居住用賃貸建物の判定は2階部分のみで行います。

 

1階はプライベートであるため、そもそも事業から除外されるからです。

 

 

 

 

2階部分の取得価額が1,000万円超であれば、居住用賃貸建物に該当します。

 

ただし、1階自己の住宅と2階住宅用賃貸部分を合理的に区分する必要があります。

 

 

 

 

合理的区分とは単純な面積按分ではなく、共用部分などを考慮した使用面積を算出し、1階と2階の構造に関する具体的な建設工事費用より按分する必要があります。

 

アパートの1室を賃貸事務所とする場合

アパートは言うまでもなく、居住用賃貸建物に該当します。

 

通常は全ての部屋の構造が住宅として建築されています。

 

しかし、アパートの一部屋を契約上も事業用として契約し、実際に事業用として使用することも珍しくありません。

 

このような場合でもあっても、居住用賃貸建物の判定は建物1棟で行います。

 

例え一部屋だけ現に事業用として貸し付けていたとしても、居住用賃貸建物に該当します。

 

 

 

 

 

店舗兼賃貸住宅と異なり、その構造は住宅用です。

 

さらに店舗兼・自宅兼賃貸建物と異なり、該当する一部屋だけの建築原価を面積按分などで算出することは合理的ではありません。

 

よって、その建物全体が居住用賃貸建物に該当すると考えられます。

 

ただし、アパートの一部屋を事務所として賃貸する場合、法令上、居住用賃貸建物に該当するか明記されていません。

 

現在の法令下においては、その他の状況に照らして判断することが要になります。

 

分譲マンションを自社事務所or賃貸事務所として利用する場合

住宅用構造の分譲マンションを購入し、自社事務所として利用することも多々あります。

 

また、契約上、適正に事業用として賃貸することも考えられます。

 

分譲マンションのため建物の構造は住宅であり、一見すると、居住用賃貸建物に該当するようにも考えられます。

 

しかし、現に自社事務所として利用していたり、また賃貸契約上、その用途が事業用とされている場合、居住用賃貸建物に該当しないと考えられます。

 

 

 

 

建物の構造が住宅用であったとしても、住宅として貸し付けていないことが明らかだからです。

 

ただし、これらの場合も、法令上、居住用賃貸建物に該当するか明記されていません。

 

現在の法令下においては、その他の状況に照らして判断することが要になります。

 

分譲マンションを事務所として賃貸予定の場合

住宅用構造の建物を購入し、事業用として賃貸予定である一方、期末において賃貸を開始していない場合があります。

 

または、事業用賃貸開始が翌期にずれこむ場合も考えられます。

 

このような場合、例え事業用として賃貸予定であっても、居住用賃貸建物に該当します。

 

居住用賃貸建物の判断は、その取得時若しくは期末の現況において判断します。

 

 

 

 

期末までに事業用として賃貸予定という場合、未だその用途が不明だと考えられます。

 

一方で、建物の構造は住宅用であるため、居住用賃貸建物に該当すると考えられます。

 

ただし、法令上、用途不明の定義については、明らかにされていません。

 

現在の法令下においては、その他の状況に照らして判断することが要になります。

 

根拠法令

消費税法第30条第10項(仕入れに係る消費税額の控除)

消費税法基本通達1-5-30(高額特定資産等が居住用賃貸建物である場合等の法第12条の4の適用関係)

消費税法基本通達11-7-1(住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物の範囲)

消費税法基本通達11-7-2(居住用賃貸建物の判定時期)

消費税法基本通達11-7-3(合理的区分の方法)

まとめ

今回は、居住用賃貸建物の基本的な考え方とその判定材料について、ザックリ説明しました。

 

居住用賃貸建物の定義については明確に定められていない部分もあり、居住用賃貸建物に該当するか悩む方も多いようです。

 

特に居住用物件を商業用として利用したり賃貸している場合、居住用賃貸建物に該当するのか、明確には定義されていません。

 

現在のその他の状況に照らして、じっくり検討して判断することが肝要です。