勤務先が負担する資格取得費用や講座受講費用の取り扱い

最近就職雑誌の募集要項を見ていると、「資格取得補助制度有」等文言を目にします。

個人の資格を勤務先が負担してくれることは、非常に有難い事です。

多くの方が保有し、身分証明にもなる資格というと、運転免許証やパスポートがあげられます。

 

勤務先が個人の費用を負担したする事は、実務においてしばしば登場し、必ず「給与課税」とい

う問題点にぶち当たります。

しかし、業務に必要な資格取得関連費用は、即座に給与課税が行われるわけではありません。

 

今回は、勤務先が個人の資格取得費用を負担した場合の取り扱いについて説明します。

 

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よくある個人の資格取得費用や講座費用

勤務先が負担する個人の資格取得費用として、しばしば帳簿に登場する資格や講座は、下記のよ

うな費用があげられます。

誰でもよく目にする資格や講座が並びますが、給与課税とすべきか悩む事が多々あります。

 

  1. 運転免許証、大型免許証、原付自動車免許、第二種運転免許証
  2. パスポート取得費用
  3. 調理師免許取得費用
  4. フォークリフト
  5. 生命保険募集人
  6. 危険物取扱主任者
  7. 食品衛生責任者
  8. 登録販売士
  9. 宅地建物取引士
  10. マナー講座
  11. 英会話学校講座
  12. 簿記検定講座

 

給与とすべきか問題となる理由

上記の資格取得費用が問題となる理由は、資格そのものが個人に帰属するからです。

運転免許証を一度取得すれば、プライベートで車の運転が可能。

パスポートを取得すれば、業務上の海外出張だけでなく、個人的な海外旅行も可能。

 

一度取得すれば明らかに業務以外でも利用可能な為、勤務先が負担した場合、各個人は確実にそ

の恩恵を受ける事となります。

よって、勤務先がこれらの資格取得費用を負担した場合原則的に給与課税がされます。

 

社員個人に帰属するものに対して勤務先が負担した場合には、給与課税が原則です。

給与とされない資格取得費用等の判断基準

そこで勤務先が資格取得費用を負担した場合、給与課税がされない要件が定められています。

その条件は、「業務に直接必要な技術や知識を習得の為の費用で適正な金額で

ある事」です。

ポイント 業務に直接必要であること

資格取得費用の場合には、常に社員が担う業務に直接必要かがポイントです。

講座受講費用を負担した場合には、社員が担う職務に直接必要な知識等の講座である必要があり

ます。

 

社員が日常行う職務内容と照らし合わせて、その必要性を考えることが必要です。

ポイント 適正な金額であること

何をもって適正かどうかは明らかではありません。

一般的に適正と思われる水準は、資格取得に伴う講習などで、特別高額なプランを選択している

わけでなければ、適正だと思われます。

個別事例

上記のよくある資格の例について、ざっくり検討してみます。

あくまでもケースバイケースですが、一般的な例として考えていきます。

1~3 運転免許証、フォークリフト、パスポート、調理師免許等

運転免許については、業務上、常に配送業務に従事する社員、長距離トラックの運転手について

は、明らかに業務の遂行上、必要不可欠です。

 

タクシー運転手の第2種免許や、飲食店の調理場に従事する社員の調理士免許費用も、業務上必

要不可欠です。

工場内作業勤務の方については、フォークリフト免許必須の場合もあります。

 

また、業務上、海外出張をする事になった場合のパスポート費用についても、業務上必要といえ

ます。

 

しかし、外回りの営業担当者に運転免許取得させる場合、常に業務上直接必要かどうかが問題と

なります。

その場合には、業務上必要である理由を明確に記録しておく必要があります。

 

社員なら誰でも無条件で免許費用を負担して良いわけではありません。必要性を鑑みることが必要です。

4~8 生命保険募集人危険物取扱責任者、食品衛生責任者、登録販売士、宅地建物取引士等の資格

これらの資格は、業界で働くのであれば、必要不可欠ともいえる独特の資格です。

保険会社の営業マンであれば生命保険募集人、ガゾリンスタンドであれば危険物取扱主任者、飲

食店であれば食品衛生責任者、ドラッグストアなどの小売店であれば登録販売士などです。

社員にそれらの資格を取得させる事は、いうまでもなく社員の業務内容と直接関係します。

 

命保険募集人等の業界独特の資格は、日常の業務内容にほぼ直接関係しています。

 

また国家資格である宅地建物取引士についても同様です。

不動産業界において、重要事項の説明等を行うことが可能なのは宅地建物取引士だけです。

しかし、誰もが宅地建物取引士である必要はありません。

受講する社員の業務の内容を照らし合わせて、宅地建物取引士の資格を取得させることが妥当で

あれば、業務内容と直接関係すると思われます。

 

社員が資格取得を必要とし、業務に直接必要な理由を明確にしておきましょう。

9~11、簿記検定講座、マナー講座、英会話学校

これらのいわゆるレッスン費用についても、社員の職務に直接必要かどうかで判断します。

例えば、経理や財務を担う立場の社員であれば、簿記の能力の取得については、確実に直接関連

性があります。

 

また新入社員という立場の人間にマナー講座させる事が、社会的なマナー取得により、取引先と

円滑な関係を結ぶ目的であれば、社員が担う職務に必要と言えます。

 

英会話学校の費用についても、海外出張や海外勤務を担う人間に英語は直接業務に必要です。

更に国内勤務でも英語の商談等を日常行うのであれば、社員の地位と照らし合わせ、勤務先が社

員に英語の能力向上を求める事もあります。

 

これらの場合、英語の能力が業務に直接関係していると考えられます。

 

講座やスクール費用は、業務内容の他、社員の立場や地位についても勘案しておきましょう。

注意点

・資格取得費用や講座費用を負担する場合には、社員の職務遂行上に必要性に照らし合わせて判

 断しましょう。

・社員の職務遂行上に必要とした理由を、確実に記録しておきましょう。

・資格取得費用や講座費用は、必ず勤務先が全額負担しましょう。そして勤務先の名前で請求

 書、領収書を貰いましょう。

・資格取得や講座費用を社員と折半し、半額をキャシュバックした場合、社員に対して給与を支

 給したこととなります。

・資格取得に合格しお祝い金を現金支給した場合は、給与課税となります。

 

資格取得や講座費用の一部を現金支給した場合は、給与課税となってしまいます。くれぐれも注意しましょう。

まとめ

今回は勤務先の資格取得費用等について考えてみました。

「社員の職務に直接必要な知識等の取得」という条件を確実にクリアすることが必要です。

比較的資金に余裕があり、社員教育に力を入れている企業では、資格取得を推進しています。

 

しかし、あくまでも業務遂行上で必要という条件があり、何でも全て福利厚生費となるわけでは

ありません。

 

特に、資格取得費を一部金銭で補助するような場合には、確実に給与課税がされてしまう為、勤

務先が全額負担をするようにしましょう。