100%グループ法人間で自己株式の取得があった場合の取り扱い

法人間で行われる自己株式の取得は、組織再編を意図して行われる場合があります。

 

中小法人間においては、親子、兄弟、孫会社間において実施されることも。

 

自己株式の取得があった場合、譲渡した側はみなし配当や株式譲渡損益を認識する必要があります。

 

しかし、100%グループ法人間においては、グループ法人税制独特の処理が必要です。

 

今回は、100%グループ法人間で自己株式の取得があった場合の取り扱いについて、ザックリ説明します。

 

なお、ここでは自己株式を譲渡した側の処理について説明をします。

 

 

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通常の自己株式の取得があった場合

自己株式の取得があった場合、譲渡した側は、株式発行法人から自己株式取得に伴う対価として、金銭の交付を受けます。

 

税務処理上は、交付対価の額をみなし配当と譲渡対価の2つに分類し、株式譲渡損益を認識します。

(取得資本金の額によって、みなし配当が認識されない場合もあります。)

 

 

 

 

 

自己株式の取得があった場合、譲渡した法人では、通常は下記のような取り扱いがされます。

 

 

◇事例◇(100%グループ内ではない法人間)

・A社はB社株式の20%を所有(B社株式簿価150)

・B社はA社から自己株式を取得し、A社に現金300を交付

・A社のB株式取得資本金は130

 

 

まず、交付対価をみなし配当と譲渡対価の2つに分類し、株式譲渡損益を認識します。

 

 

 

 

上記に基づき会計仕訳を起こします。

 

税務上と会計仕訳を一致しているものとし、異なる場合は適宜、税務調整を起こします。

 

 

 

 

100%グループ法人間でない場合、上記の仕訳により処理が完了します。

 

なお受取配当金は、益金不算入規定の適用が可能です。

 

100%グループ法人間で自己株式があった場合

100%グループ法人間の取引の場合、通常と異なる点は、株式譲渡損益が認識されない点です。

 

譲渡対価は強制的に譲渡原価の額とされ、株式譲渡損益は0になります。

 

本来算出されるはずだった株式譲渡損益は、資本金等の額で調整されます。

 

100%グループ法人間の場合、必ず税務調整が必要になり、下記のようなに取り扱いがされます。

 

◇事例◇(100%グループ内法人間)

・A社はB社株式の20%を所有(B社株式簿価150)

・B社はA社から自己株式を取得し、A社に現金300を交付

・A社のB株式取得資本金は130

 

 

交付対価の額からみなし配当を算出し、譲渡損益は強制的に0とします。

 

そして、本来算出される譲渡損益は、資本金等の額で調整されるため、減少する資本金等の額を算出します。

 

 

 

 

上記に基づき税務調整仕訳を起こします。

 

会計仕訳は法人により異なる為、適宜、税務調整仕訳を起こします。

 

 

 

 

上記の調整仕訳に基づき、税務調整を起こします。

 

100%グループ法人間のみなし配当は、全額益金不算入とされます。

 

 

 

 

 

利益積立金額は、みなし配当の額だけ増加します。

 

 

 

 

本来の譲渡損益の額だけ資本金等の額が減少すれば調整完了です。

 

 

 

 

 

 

100%グループ法人間で自己株式の取得が行われた場合、必ず税務調整が必要になります。

 

本来の株式譲渡損益が、資本金等の額で調整されることがポイントです。

 

なお、株式発行法人側(自己株式取得法人)では、その処理に差異はありません。

 

また、自己株式の取得に伴い、金銭以外の資産(現物)が交付される場合、別途、特別な処理が必要になります。

 

交付対価が現物(適格現物分配)の場合

100%グループ内において、自己株式の取得の対価が土地等の現物で行われた場合、適格現物分配が適用されます。

 

適格現物分配による法人間の資産移転は、常に簿価で行われたとみなされます。

 

被現物法人へ移転する資産の価額、また現物分配法人が受け入れる資産の価額は、移転する資産簿価され、お互いに利益積立金額が増減します。

 

また、現物分配法人が譲渡した株式の対価は、譲渡原価の額とされ、株式譲渡損益は認識されません。

 

現物分配法人と被現物分配法人の両社において、株式や資産の譲渡損益は生じません。

 

譲渡損益に相当する額は、利益積立金額や資本金等の額で調整されます。

 

 

 

 

 

ただし、被現物分配法人は受け入れた資産の価額の内に、みなし配当を認識する必要があります。

 

以下、簡単な事例により、会計仕訳と税務調整をザックリ説明します。

 

 

◇事例◇(100%グループ内ではない法人間)

・A社はB社株式の100%を所有(B社株式簿価150)

・B社はA社から自己株式を取得し、A社に土地を現物分配(時価300、簿価200)

・A社のB株式取得資本金は130

 

 

B社は簿価200で土地をA社へ移転したとみなします。

 

一方、A社も簿価200で土地の移転を受けたものとみなされます。

 

また、100%グループ法人間において自己株式の取得があった場合、自己株式の譲渡対価の額は譲渡原価の額とされます。

 

A社はB社に対し、B社株式をその簿価と同額150で譲渡したとされ、株式譲渡損益は認識せず、資本金等の額で調整されます。

 

ただし、A社は移転を受けた土地200の内、みなし配当の金額を認識する必要があります。

 

 

 

 

会計・税務仕訳、税務調整の参考は下記のようになります。

 

【現物分配を受けた法人(A社)の処理】

被現物法人では、企業結合会計により、保有する株式を引き換えに土地を取得したとみなします。

 

まずみなしの金額、株式譲渡対価、譲渡損益を把握します。

 

 

 

 

上記を元に、税務上の仕訳を起こします。

(会社の会計仕訳を、受取配当金と処理する方法も考えられます。)

 

 

 

 

別4では計上もれのみなし配当の認識、株式譲渡損益の否認を調整します。

 

ただし、適格現物分配によるみなし配当は、全額益金不算入です。

 

 

 

 

同様に、別5において利益積立金を調整します。

 

 

 

 

 

 

 

【現物分配法人(B社)の処理】

現物分配をした法人は、簿価により資産を移転したとみなされます。

 

自己株式の取得の対価は、A社へ移転した土地の簿価200とみなされます。

 

また、対価200(土地の簿価)からA社の取得資本金130を控除した金額が、みなし配当70とされ、利益積立金が減少します。

 

 

 

 

税務調整は、通常の自己株式の取得が行われた場合と同様に、別5の利益積立金、資本金等の額のみとなります。

 

 

 

 

 

 

 

 

100%グループ内で自己株式取得に伴い、現物分配が行われた場合、譲渡損益は一切生じない事がポイントです。

 

ただし、みなし配当は認識を適正に認識する必要があります。

根拠法令

法人税法第22条(各事業年度の所得の金額の計算の通則)

法人税法第24条第1項(配当等の額とみなす金額)

法人税法第61条の2第17項(有価証券の譲渡益又は譲渡損の益金又は損金算入)

法人税法第62条の5(現物分配による資産の譲渡)

法人税法施行令第8条(資本金等の額)

法人税法施行令第9条第1項第4号(利益積立金額)

まとめ

今回は、100%グループ法人間で自己株式の取得があった場合、株式の譲渡した側の処理について、ザックリ説明しました。

 

100%法人間においては独特の処理が規定されている為、株式の譲渡損益の取り扱いに注意が必要です。

 

また、適格現物分配に該当した場合、簿価での資産の移転となる事を留意する必要があります。

 

自己株式の取得があった場合は、一度その処理をじっくりと考える必要があります。