適格株式分配(スピンオフ税制)の基本的概要と課税関係。

平成29年の税制改正により、スピンオフ税制が創設されました。

 

スピンオフとは、特定部門分離による新会社設立のことであり、法人税法上、単独新設分割型分割や株式分配の2パターンです。

 

大企業向け税制であり、中小企業は馴染みがありません。

 

しかし、100%子会社を迅速に独立事業をさせる方法として有効な手段です。

 

とりわけ、株式分配が適格株式分配に該当する場合、資産の簿価移転による課税の繰り延べが可能です。

 

今回は、適格株式分配の基本的な課税関係の考え方について、ザックリ説明します。

 

 

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適格株式分配の概要

株式分配とは、剰余金の配当として株主に対し、100%子会社株式を交付すること(現物分配)をいいます。

 

主に子会社を独立させる場合に有用とされる手法です。

 

更に株式分配のうち、現物分配法人の株主構成に支配関係がないなどの一定の要件に該当する場合、適格株式分配に該当します。

 

通常、現物分配を行った場合、現物分配法人から株主に対し、時価で子会社株式を譲渡したと取り扱われます。

 

適格株式分配は、100%子会社株式移転に伴う譲渡損益は一切認識せず、子会社を分離・独立させることが可能です。

 

以下は株式分配のイメージです。

 

 

【株式分配前の出資関係】

 

 

 

【株式分配後の出資関係】

 

 

現物分配法人の株主が複数存在する場合の子会社株独立の手段として、非常に有効な方法とされています。

 

そして適格株式分配に該当する場合、以下の法人税特有の論点があります。

 

 

・100%子会社株式の譲渡損益の不認識

・資本金等の額による調整

・株式簿価修正

 

 

後述する適格株式分配の要件とあわせて、留意する必要があります。

 

なお、ここでは触れませんが、現物分配法人とその株主が完全支配関係にある場合は、適格現物分配に該当します。

 

適格株式分配の要件

適格株式分配の要件は、株式分配の形式条件と分配後の子会社条件に分かれます。

 

株式分配の形式条件は以下の3点。

 

 

◆株式分配の形式条件◆

①金銭交付なし

②子会社株式は現物分配法人株式保有割合に基づき交付

③株式分配の前後に現物分配法人に支配関係株主なし

 

 

最も重要な条件は、③支配関係株主が存在しないことです。

 

少なくとも、現物分配法人の株主が3名以上である必要があります。

 

また、株式分配後の子会社の条件は以下3点です。

 

 

◆株式分配後の子会社の条件◆

①子会社の役員が少なくとも1人は継続

②子会社の80%の従業員が継続勤務

③子会社の主な事業が継続

 

 

株式分配後において、子会社の状況に特段の変化がないことが求められます。

 

上記条件を充当しない場合、非適格株式分配とされ、時価で子会社株式が移転したと取り扱われます。

 

その場合は、みなし配当課税や株式譲渡損益を認識することになります。

 

適格株式分配の会計処理

非適格または適格にかかわらず、株式分配が行われた場合の会計処理は同一です。

 

会計処理のポイントは以下の2点。

 

 

◆会計上のポイント◆

・現物分配法人は交付資産簿価で剰余金の配当

・現物分配法人の株主は、現物分配法人の株式簿価の一部を子会社株式に付け替え

 

 

以下、現物分配法人をA社、現物分配法人の株主をB社、A社の100%子会社をC社とし、会計処理を行います。

 

 

◆例示◆

・A社が保有するC社株式簿価500

・A社の純資産価額2,000

・B社が保有するA社株式簿価1,000

・A社株主のそれぞれが保有するA社株式の保有割合1/3

 

 

A社は剰余金の配当としてB社にC社株式を放出したため、C社株式簿価を繰越剰余金により減額します。

 

 

 

 

更にB社は、保有するA株式の簿価の一部を、受け入れたC社株式の簿価に付け替えます。

 

付け替える金額は、A社の純資産に占めるC社株式の割合です。

 

 

 

 

会計処理はこれで完了です。

 

適格株式分配の税務処理と税務調整

税務処理のポイントは、以下の3点です。

 

 

◆税務処理のポイント◆

・現物分配法人は子会社株式を簿価譲渡し譲渡損益不認識

・現物分配法人は子会社株式を資本金等の額により消滅

・現物分配法人の株主は、現物分配法人株式の簿価の一部を子会社株式に付け替え

 

 

以下、会計処理と同様に、現物分配法人をA社、株主現物分配法人の株主をB社、A社の100%子会社をC社とします。

 

A社は剰余金の配当としてB社にC社株式を放出したため、C社株式を簿価で譲渡したこととされます。

 

ただし、譲渡対価=譲渡原価とされ、有価証券譲渡損益は認識しません。

 

そして放出したC社株式は100%子会社株式のため、グループ法人税制の適用により、資本金等の額で消滅させます。

 

 

 

 

会計上、C社株式の放出は利益積立金額の減少とされているため、別5において税務調整を行います。

 

 

 

 

A社の処理はこれで終了です。

 

更にB社は、保有するA株式の簿価の一部を、受け入れたC社株式の簿価に付け替えます。

 

付け替える金額は、A社の純資産に占めるC社株式の割合です。

 

 

 

 

B社の処理はこれで完了です。

 

税務処理も会計処理と同様に、難しいものではありません。

 

現物分配法人とその株主に100%完全支配関係がない場合、適格現物分配は採用できません。

 

しかし、適格株式分配であれば、適用可能な場合もあります。

 

子会社独立の1つの方法と捉えておくと便利です。

 

根拠法令

・法人税法第2条第12号の15の2(株式分配)

・法人税法第62条の2第8項(有価証券の譲渡益又は譲渡損の益金又は損金算入)

・法人税法第62条の5第3項(現物分配による資産の譲渡)

・法人税法施行令第8条第1項第16号(資本金等の額)

・法人税法施行令第4条の3第16項(適格組織再編成における株式の保有関係等)

まとめ

今回はスピンオフ税制の1つである適格株式分配について、ザックリ説明しました。

 

中小企業では馴染みはありませんが、子会社独立手法の1つです。

 

適格現物分配や単独新設分割型分割とあわせ、迅速に子会社を独立させる方法として、念頭に置いておくべき法令です。