LGBTカップルの信託契約。任意後見人契約と共に信託契約を考慮すべき場合について。
LGBTカップルが安心して生活をするために、遺言公正証書や任意後見人契約が欠かせません。
任意後見人制度は、認知症等により判断機能が低下した場合、身上保護として機能します。
お互いが他人であるLGBTカップルの場合、将来考慮すべき重要な制度の1つです。
そして似たような機能として、信託契約があります。
遺言公正証書や任意後見人契約が先決ですが、信託契約が有効に働く場合もあります。
今回は、LGBTカップルの信託契約について、ザックリ説明します。
なお、LGBTカップルの場合、あくまでも、遺言公正証書と任意後見人契約が優先です。
信託契約では、これらをカバーすることはできません。
間違っても、信託契約を第一に考えるべきではありません。
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任意後見人契約では不向きな不動産管理と処分
LGBTカップルの場合、認知症対策として、任意後見人契約が考えられます。
将来の認知機能低下時の備え、健康なうちに、予め身上保護をする人を定める制度です。
任意後見人契約の内容は、主に預貯金の払出、日常生活の取引、日用品の購入、税金申告、保険金受領、介護・医療等サービスの契約、不動産の管理処分など。
即ち、身上保護に関する内容が中心です。
任意後見人が行うこれらの内容は、代理権として、予め定めておくことになっています。
ところで、LGBT当事者の中には、アパート等の不動産物件を所有する方もいます。
自身の認知機能が低下時、所有不動産の管理・修繕・処分・運用が大きな問題になります。
任意後見人契約の代理権で、これら財産管理を定めることも可能です。
一方、任意後見人が行う行為は、任意後見人監督人がチェックします。
多額の不動産管理や処分を行うのであれば、任意後見監督人が納得できる説明材料、報告等を加味しておく必要があります。
内容によっては、任意後見監督人に、報告義務がある場合もあります。
故に、不動産等の投資物件の管理・処分等が必要な場合、任意後見人契約では、やや難しいことも考えられます。
そのような場合、信託契約の方が適する場合があります。
以下、LGBTカップル間で不動産(アパート物件)を信託する例について、説明します。
アパートを信託した場合の課税関係
同性カップル間の一方が、アパート物件を有する場合です。
認知症等になった場合、お互いが親族ではない同性間は、アパートの管理・処分が自由にならないリスクがあります。
このような場合に備え、以下の内容でアパートを信託契約考えます。
(あくまでも一例です。)
【信託契約の内容:自益信託】
委託者:パートナーA
受託者:パートナーB
受益者:パートナーA
信託終了:パートナーAの死亡
【信託契約設定時】
信託契約により、アパートの登記上の所有権は、受託者Bに変わります。(信託登記)
Aが意思判断不能になった場合でも、信託契約の内容により、Bはアパートの管理・処分・譲渡等が可能です。
アパートの所有権は信託契約により、既にBになったからです。
故に、受託者であるBの名義で、管理・処分・譲渡等が実施されます。
一方、税法上の所有権は、依然、BではなくAのままです。
信託設定がされた場合、税法上の所有権は、受益者とされています。
即ち、委託者=受益者として信託契約した場合、税法上の所有権はAのままです。
【信託契約中のアパートの運用】
受託者Bのアパート管理中は、不動産収入が生じます。
また、アパートを処分すると、譲渡収入が生じます。
その不動産収入や譲渡収入に対する申告納税義務は、税法上の所有者のAです。
登記上の所有者であるBに、それらの義務はありません。
受託者であるBは、Aから託されたアパートの運用管理等を行うのみです。
【信託契約終了時】
そしてAが死亡した場合、信託は終了します。
遺言公正証書で、全ての財産をBに包括遺贈こととすれば、アパートはBが相続します。
また、信託契約によりA死亡時、アパートをBに帰属(相続)させることも可能です。
(ただし、遺留分の問題があることには変わりありません。)
上記が、同性パートナー間の信託契約の一例です。
任意後見人契約の財産管理処分に不安がある場合、信託契約も、手段の1つとして考えておく必要があります。
信託契約はあくまでも補完手段
LGBTカップルが安心して生活をする為に、まず包括遺贈による遺言公正証書を交わすべきです。
そして、認知症等の対策の身上保護として、任意後見人契約を考えるべきです。
任意後見人契約でも難しい財産処分(例えば、アパートや土地等の投資物件など)問題有する場合、信託契約という手段が考えられます。
信託契約はあくまでも、遺言公正証書や任意後見人契約の補完手段としての位置づけです。
信託とは日常生活で馴染みがありません。
そのため、安易に考えず、必ず専門家の意見やサポートを受けるべきです。
そして、自身がそのリスク等を十分理解した上で、最終的な補完手段として、信託契約を選ぶ必要があります。
根拠法令
所得税法第13条(信託財産に属する資産及び負債並びに信託財産に帰せられる収益及び費用の帰属)
相続税法第9条の2(贈与又は遺贈により取得したものとみなす信託に関する権利)
まとめ
今回は、LGBTカップルの信託契約について、その1例をザックリ説明しました。
遺言公正証書と任意後見人契約をベースをしつつ、知識の1つとして知っておくべきです。
ただし、基本は遺言公正証書です。
そして、認知症等に備えるには、任意後見人契約です。
基本を忘れないことが、賢いLGBTカップルの生き方です。