非居住者の退職金の選択課税の確定申告書の記載方法について。

日本の会社から海外転勤になった後、結婚や転職等により、現地で退職される方がいます。

 

働き方も自由になり、現地でフリーランスに転身する方も増えています。

 

海外居住のまま日本の会社から退職金の支給を受ける方もいますが、高額な退職金の源泉所得税に驚く方が多いようです。

 

そのため、退職金の選択課税を適用を考える方が殆どです。

 

今回は、非居住者の退職金の選択課税の確定申告書の記載方法について、ザックリ説明します。

 

 

 

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退職金の選択課税の準備と注意事項

退職金の選択課税は、確定申告書の1表、2表、3表、非居住者等に支払われる給与等の支払調書(以下、支払調書)、また事前に納税管理人の届け出が必要です。

 

特に支払調書には退職金計算基礎が記載されており、税務署へ添付するため必要不可欠です。

 

 

 

 

そして、退職金の選択課税の申告は、基礎控除や所得控除は一切適用しないことがルールです。

 

課税退職所得(×1/2をした後の退職所得)に超過累進税率を乗じ、所得税を計算します。

 

そのため、他の所得(事業所得、不動産所得など)の申告義務あったとしても、退職金の選択課税の申告書を単独で提出します。

 

例えば、海外居住者が日本に不動産所得があり、不動産所得の申告をする場合、不動産所得の確定申告書と退職金の選択課税の申告書を別々に提出します。

 

退職金の選択課税は基礎控除や所得控除が適用できないからです。

 

 

 

 

更に納税管理人が確定申告書を行うため、事前に納税管理人の届出が必要です。

 

非居住者等に支払われる給与等の支払調書を確認

支払調書には、選択課税の必要事項が記載されています。

 

20.42%対象の退職金や計算根拠、勤続期間や退職所得控除額、入社日と退職日などです。

 

勤務先により記載方法は異なりますが、必要事項は網羅されています。

 

以下、非居住者が退職金の支給を受けた場合の一例です。

 

【入社日:2015年4月1日】【出国日:2019年5月1日】【退職日:2025年4月30日】

【退職金総額:10,000,000円】

 

 

 

2015年4月1日から2019年5月1日まで国内勤務のため、当該期間の退職金が課税対象です。

 

1,491日分の退職金につき、20.42%源泉徴収対象です。

 

上記を元にし、以下の支払調書が作成されます。

 

支払調書には退職所得控除額や勤続年数の記載があります。

 

しかし、支払調書時点では、一切考慮されていません。

 

国内勤務期間対応部分の支払金額に対し、20.42%源泉徴収されているだけです。

 

 

 

 

2015年4月1日から2019年5月1日まで国内勤務のため、当該期間の退職金が課税対象です。

 

1,491日分の退職金が、20.42%源泉徴収されています。

 

しかし、選択課税を適用する場合、退職金総額10,000,000円を申告する必要があります。

 

上記の支払調書を元に、退職金の選択課税の申告書を作成します。

 

ここでは2表は割愛し、1表の定額減税は無いこととしています。

 

確定申告書第3表の作成

支払調書を元に確定申告書第3表から作成します。

 

第3表の下部の【退職所得に関する事項】に、支払調書の退職金総額(収入金額)10,000,000と退職所得控除4,400,000を記載します。

 

 

 

次に、収入金額10,000,000を、収入金額の【退職二】へ転記します。

 

 

 

 

次に、(収入金額−退職所得控除額)×1/2の金額を自身で計算し、課税される退職所得の金額を算出します。

 

ここでは、(10,000,000-4,400,000)×1/2=2,800,000です。

 

所得金額【退職78】へ記載します。

 

 

 

 

そして、基礎控除や所得控除は一切適用せず、同額を税金の計算【86】へ記載します。

 

 

 

 

最後に、所得税額を自身で算出します。

 

税金の計算【86】に通常の所得税率(超過累進税率)を乗じます。

 

ここでは、2,800,000×10%-97,500=182,500です。

 

税金【94と95】に記載します。

 

 

 

 

これで確定申告書3表の作成が終わりました。

 

 

 

 

確定申告書第1表の作成

確定申告書1表【税金の計算】31に、3表で算出した税額182,500円を転記します。

 

【復興特別所得税46】を記載し、【源泉徴収税額50】に支払調書記載の源泉所得税826,893を記載します。

 

順番に計算すると、必然的に【第3期分の税額54】に、還付金額が算出されます。

 

 

 

 

申告書の作成が完了したら、支払調書とともに税務署へ提出します。

 

退職金の選択課税の申告は、それ程難しくありません。

 

支払調書を用意すること、そして支払調書を正確に読み取ることが最重要です。

 

そして、基礎控除や所得控除は適用しないことに留意すれば、自身でも行うことが可能です。

 

非居住者として20.42%課税がされた場合、還付を受けることができる可能性があります。

 

納税管理人と相談し、選択課税にチャレンジした方がベターです。

 

根拠法令

所得税法第171条(退職所得についての選択課税)

所得税法第173条(退職所得の選択課税による還付)

所得税法第212条第2項(源泉徴収事務)

所得税法施行規則70条(退職所得の選択課税による還付のための申告書の記載事項)

所得税法施行規則71条(退職所得の選択課税による還付のための申告書への添附書類)

まとめ

今回は、退職金の選択課税の申告書の記載方法について、ザックリ説明しました。

 

支払調書を正確に読み取れば、それ程困難ではありません。

 

ただし、基礎控除や所得控除は適用できないことや、納税管理人が申告を行うことなど、留意しておくことがあります。

 

非居住者が退職金を受給した場合は、利用してみてもよい制度です。