LGBTカップルの遺言書と遺留分侵害額請求。同性カップルが知っておくべき遺留分侵害額請求とは?
全国でLGBTパートナーシップ制度が進み、共に生活する同性カップルが増えました。
老後を考慮した場合、同性カップル間において、公正証書遺言は大きな意義があります。
同性カップルが公正証書遺言を交わす場合、特段の理由がなければ、ゲイ当事者の僕は、確実に財産を遺すことができる全部包括遺贈をお薦めしています。
しかし、全部包括遺贈により遺言を交わす場合、必ず遺留分侵害額請求について理解をしておく必要があります。
今回は、同性カップルが知っておくべき遺留分侵害額請求について、ざっくり説明します。

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全部包括遺贈の問題点と遺留分侵害額請求
同性カップル同士は自然に相続人になることはできません。
パートナーに遺産を遺すためには、必ず遺言書(公正証書)が必要です。
ゲイ当事者の僕は、同性カップルの遺言は、全部包括遺贈の方法をお薦めしています。
全部包括遺贈とは、いわゆる「(財産も借金も)全ての財産を相手に遺す」という方法です。

同性カップルを通常の夫婦と仮定するのなら、莫大な資産家でもない限り、全ての遺産をパートナー(配偶者)に遺すことは至って普通です。
多額の借金がある場合や、特定の遺産を兄弟等に遺したいという強い思いがないのあれば、全ての遺産をパートナーに遺すことが最善です。
一方で、パートナーの両親が存命の場合、遺留分の問題が発生します。
遺留分とは、民法上の相続人の相続可能な最低限度の割合のことです。
パートナーが健康であればその両親が先に亡くなるため、パートナーの両親との間に遺留分の問題が生じる可能性は低いと感じられます。
しかし、両親といざこざがあったり、パートナーの両親に一度も会ったことがない同性カップルは、非常に多い傾向にあります。
仮にいずれかのパートナーが不慮の事故に遭った場合、その両親の立場を鑑みると、どこの誰だかわからない男に全ての財産を盗られた。と思われても仕方ありません。
また、遺留分がない兄弟姉妹が両親に遺留分を主張するよう、横槍を入れる可能性もあります。
パートナーの両親だからこそ、万が一の遺留分侵害額請求を知っておく必要があります。
遺留分侵害額請求の基本について
通常、LGBTの方には、民法上の配偶者や子供はいません。
殆どの場合、親族は両親と兄弟だけのはずです。
よって、遺留分の問題が発生する場合は、パートナーの両親が生きている場合です。
(兄弟に遺留分はありません。)
パートナーが亡くなり、その両親が生きている場合、両親には1/3の遺留分があります。
即ち、父と母にそれぞれ1/6の遺留分です。

仮にパートナーの遺産総額が1億2,000万円の場合、両親にはそれぞれ2,000万円ずつ相続する権利があります。
全部包括遺贈によりパートナーが全ての遺産を相続すると、遺留分を有する両親が相続する財産は0円です。
よって、各両親はパートナーに対し、2,000万円ずつ計4,000万円を請求する権利が生じます。

そして、大切なことは、遺留分侵害額請求を受けた場合、パートナーは金銭、即ち、現金を両親に支払います。
遺留分侵害額請求を受けた場合、現金で支払う必要があることを知っておく必要があります。
資産(土地建物)で支払った場合は譲渡所得になる
遺留分侵害額請求を受けた場合、現金を支払うことができない場合もあります。
その場合、パートナーから相続した or 自己の資産(土地や建物)で支払うことも可能です。
しかし、資産(土地建物)で支払う場合、一旦、資産を譲渡して現金化し、その現金で支払ったと考えます。
よって、土地建物の譲渡所得税が課税されることになります。
仮に現金に替えて時価5,000万円の土地で遺留分を支払った場合、5,000万円の譲渡収入となり、所得税の確定申告が必要になります。

LGBTカップルが遺言を作成する場合、必ず遺留分について問題になります。
特に、両親との仲が悪い場合、最悪の事態が発生することが考えられます。
遺言を作成する場合は、必ず遺留分侵害額請求について、理解しておくことが肝要です。
根拠法令
所得税法基本通達33-1の6(遺留分侵害額の請求に基づく金銭の支払に代えて行う資産の移転)
民法第482条(代物弁済)
民法第1042条(遺留分の帰属及びその割合)
民法第1046条(遺留分侵害額の請求)
民法第1047条(受遺者又は受贈者の負担)
まとめ
大きな争いや多額の遺産相続でもない限り、遺留分侵害額請求は通常発動されません。
多くの方は、故人の遺志を尊重する傾向があるからです。
しかし、LGBTカップルの場合、両親を仲が悪かったり、お互いの両親に会ったこともないということが一般的です。
遺留分の問題を回避するためには、積極的に両親を話をし、わだかまりを無くすることです。
つまりは、僕らLGBT自身でどうにでもできることです。
遺言を作成する場合は、同時に両親を話す機会を設け、お互いを両親に紹介することから始めた方がベターです。
