国外所得が生じた翌年に外国所得税を納付した場合の外国税額控除

海外勤務給与や国外不動産の売却収入など、国外所得がある方の中には、後日、海外から外国所得税の通知を受ける場合があります。

 

例えば、短期海外勤務から帰国し、日本で年末調整をした翌年に、外国所得税の賦課通知を受ける場合など。

 

また、国外不動産譲渡の確定申告後、海外から外国所得税の賦課通知を受ける場合など。

 

国外所得が生じた翌年以後に、外国所得税を納めることがあります。

 

国外所得が生じた年と外国所得税を納付した年が一致しない場合、外国税額控除の適用について戸惑うことがあります。

 

今回は、国外所得が生じた翌年に外国所得税を納付した場合の外国税額控除の適用について、ザックリ説明します。

 

 

all paints by Ryusuke Endo

国外所得が生じた翌年以後に外国所得税を納めることがある

利子や配当金に外国所得税が課される場合、通常、その受取時に、外国所得税が源泉徴収されます。

 

日本の所得税の確定申告では、源泉徴収された外国所得税に基づき、外国税額控除を適用します。

 

しかし、海外短期勤務した場合は、日本に帰国し年末調整が完了した翌年以後、現地の外国所得税が賦課通知されることがあります。

 

また、国外不動産を譲渡した場合、譲渡の翌年に確定申告を完了した後、現地の外国所得税が賦課通知されることもあります。

 

これらの場合、所得が生じた年と外国所得税を納付した年は一致しません。

 

しかし、賦課通知された外国所得税は、利子や配当金の外国所得税と同様に、外国税額控除の対象になります。

 

このような場合、国外所得が生じた年分の確定申告において、納付外国所得税0の状態で外国税額控除を適用します。

 

国外所得が発生した年に控除余裕額を繰越し

まず、国外所得が発生した年分の確定申告で外国税額控除限度額を計算します。

 

しかし、国外所得発生年は納付した外国所得税がないので、そもそも外国税額控除は0円です。

 

よって、使用されなかった外国税額控除限度額を繰り越す処理を行います。

 

控除限度額は翌年以後3年間、控除余裕額として繰越しされます。

(控除限度額の繰り越しは、下記のイメージです。)

 

 

 

 

そして、翌年に外国所得税を納付する場合、翌年分の確定申告において、繰越した控除限度額(控除余裕額)を使い、外国税額控除が適用されます。

 

具体的な事例によりにイメージをしてみます。

 

(例)① 令和3年分 給与所得合計 4,600,000円

   ② ①の内、国外給与所得  1,000,000円

   ③ 令和3年分の所得税額 396,500円

   ④ 令和4年に納付する外国所得税 100,000円

 

まず、令和3年分の外国税額控除の限度額を計算します。

 

上記例の場合、控除限度額は下記の計算式により、86,195円となります。

 

 

 

 

 

 

そして控除限度額内の範囲内で、納付した外国所得税が外国所得税控除として適用されます。

 

しかし、国外所得発生年は納付した外国所得税は0円であり、控除限度額は一切使用されません。

 

よって、控除限度額は控除余裕額として、全額翌年に繰越します。

 

 

 

 

繰り越した控除限度額(控除余裕額)は、翌年に外国所得税を納めた時に外国税額控除として適用されます。

 

外国所得税を納付した年に控除余裕額を使用

翌年に外国所得税を納付した場合、繰越した控除限度額(控除余裕額)の範囲内で、外国税額控除を適用します。

 

先述の事例により、翌年に外国所得税100,000円納付した場合のイメージは、以下の通りです。

 

外国所得税額の内、限度額86,195円の範囲内で、外国税額控除が適用されます。

 

 

 

 

注意点は、例え翌年に所得や所得税額が0円だったとしても、控除余裕額の適用により、外国税額控除の適用を受けることができる点です。

 

外国税額控除は、実際に納付した外国所得税のそのものを控除するわけではありません。

 

あくまでも、国外所得所得が発生した年の所得税額の範囲内で、その一定の限度額を調整(控除する)という制度です。

 

しかし、外国税額控除は源泉徴収税額と同様、法令上、税金の前払いと取り扱われます。

 

よって、外国所得税を納付した翌年に、何も所得がなかった場合(所得税額が0円)でも、源泉徴収税額と同様に、還付することが可能です。

 

控除余裕額の繰越を忘れた場合は更正の請求

翌年以後に外国所得税を納付することが発覚した場合、国外所得が発生した年に、控除余裕額の繰越をしていない場合があります。

 

このような場合、更正の請求により控除余裕額の繰り越しを行います。

 

外国税額控除の適用は当初の確定申告のみに限定されず、修正申告や更正の請求でも対応が可能です。

 

また、計算相違等があった場合、その適用金額も増加させることができます。

 

控除余裕額の繰越を行っていない場合、更正の請求により、控除余裕額の繰越し、外国所得税を納付した年に、外国税額控除を適用します。

 

根拠法令

所得税法第95条(外国税額控除)

所得税法第122条第2項(還付等を受けるための申告)

所得税法第138条第1項(源泉徴収税額等の還付)

所得税法施行令第224条(繰越控除限度額等)

まとめ

今回は、国外所得が生じた翌年に外国所得税を納付した場合の外国税額控除について、ザックリ説明しました。

 

国外の不動産を売却した場合などは、国外所得が生じた年と外国所得税を納付した年が一致しないことがよくあります。

 

そのような場合、2重課税の調整のために活用できる制度です。

 

翌年に外国所得税を納付する場合は、ぜひチャレンジしてみる価値がある制度です。