NFTを販売した場合の確定申告と所得の計算方法。
2021年初頭より、写真やアート作品のデジタルアートを制作し、NFT化して販売することが話題となりました。
一時期よりは落ち着いたものの、会社員の副業として人気があるようです。
NFTを販売した場合、その対価として暗号資産を受け取ります。
所得計算の方法について、疑問に感じる方も少なくありません。
今回は、デジタルアートを制作し、NFT化して販売した場合の所得の計算方法について、ザックリ説明します。
なお、ここでは暗号資産の取得等は、雑所得としています。
また、個人がデジタルアートを制作し、NFT化して販売することを、「デジタルアートの閲覧に関する権利の設定」としています。
all paints by RYUSUKE ENDO
Contents・目次
デジタルアートをNFT化して販売した場合の課税関係
デジタルアートを制作し、NFT化して販売した場合、原則、雑所得とされています。
一方、カメラマンやクリエイターなど、事業を行う個人事業主の場合、本業の事業所得に区分されます。
また、会社員が副業でNFT化を販売する場合、帳簿要件を充当し、事業所得の条件に合致する場合は、事業所得とされます。
事業所得の場合、帳簿要件等を充当し、青色申告を適用すれば、65万円特別控除が可能です。
ただし、NFT販売代金は、暗号資産(ETH)で受け取ります。
売上高は販売時のETHの時価で計上されると共に、暗号資産の計算書作成が必要です。
ここでは、NFTの販売は事業所得として処理し、暗号資産取引は雑所得のその他として処理し、両者は別々の取引と捉えます。
以下、NFTを販売した場合の事業所得の計算方法について説明します。
所得計算をするために必要な書類
NFTを発行・販売した場合の所得計算では、少なくとも、以下の書類が必要です。
① OpenSeaのNFT売上明細書
② FoundationのNFT売上明細書
③ イーサリアムスキャンのETHの取引履歴明細
④ イーサリアムスキャンのトークンの取引履歴明細
⑤ メタマスク上のETH、トークンの残高
⑥ 国内取引所の年間取引報告書や取引履歴明細
⑦ 海外取引所の取引履歴明細
①と②には、NFTの販売金額が記載されています。
NFTの個別売上金額(表記はETH)把握の為に必要です。
③と④には、獲得又は支払ったETHやそのトークン取引全てについて、イーサリアムスキャンからダウンロード可能です。
またNFTの売上代金、ガス代、手数料など、ETHの個別明細の出力が可能です。
注意点はETHとドル建で表記されているため、日本円に換算する必要があります。
例えばイーサリアムスキャンでは、以下の個別売上明細書を把握できます。
販売した時のETHのドル建て価格を表示させることができます。
当日の為替相場で円換算して売上を計上するか、またはETH相場の日本円換算を参考にするかは納税者次第です。
また、イーサリアムスキャンの取引履歴から、売上代金と手数料を読み取る必要があります。
①、②の個別売上明細書を合わせて確認し、イーサリアムスキャンを1つ1つ解読する作業が必要です。
イーサリアムスキャンの取引は、実際に取引した納税者自身にしかわかりません。
取引数量が多いと膨大になるため、販売するその都度記帳や確認を行う必要があります。
暗号資産とNFT販売の記帳方法
以下、写真やアート作品をNFT化して販売した場合の所得計算について、ザックリ説明します。
1例であり、実際の申告や法令の取り扱いは、納税者自身で責任をもつ必要があります。
◆NFTの販売取引例◆
① 国内取引所で3ETHを600,000円で購入(1ETH=200,000円)
② 海外取引所へ3ETH送金。送金手数料0.001ETH支払い(1ETH=210,000円)
③ NFT出品に伴うガス代(出品手数料)0.001ETH支払(1EHT=220,000円)
④ NFTを1ETHで販売。同時にガス代(販売手数料)
0.15ETH支払(1EHT=250,000円)
⑤ NFT二次使用料0.15ETH受領(1EHT=270,000円)
⑥ 1ETHを日本円に換金(譲渡)(1ETH=300,000円)
【①国内取引所で3ETHを600,000円で購入(1ETH=200,000円)】
購入した3ETH600,000円を、購入の欄に記載します。
【ETHの明細書】
【②海外取引所へ3ETH送金。送金手数料0.001ETH支払い(1ETH=210,000円)】
海外取引所へ送金する際に発生した手数料を、ETHで支払いました。
手数料発生時のETHの時価で一旦、ETHを日本円に譲渡して現金を受け取り、その現金で手数料を支払ったとします。
よって、手数料発生時の時価(1ETH=210,000円)で、0,001ETH譲渡したことになります。
この場合の手数料は、暗号資産の取引に関する手数料として処理をします。(後述)
【ETHの明細書】
【③NFT出品に伴うガス代(出品手数料)0.001ETH支払(1EHT=220,000円)】
NFT出品手数料を、ETHで支払いました。
②と同様、手数料発生時のETHの時価で一旦、ETHを日本円に譲渡して現金を受け取り、その現金で手数料を支払ったとします。
よって、手数料発生時の時価(1ETH=220,000円)で、0,001ETH譲渡したことになります。
この場合の手数料は、NFT販売に関する手数料として処理します。
【ETHの明細書】
そしてNFT販売に関する経費明細書を作成します。
上記はあくまでも暗号資産の記帳であり、NFTの販売に関する記帳ではありません。
②の暗号資産の手数料とは異なり、NFT販売に関する手数料とするため、NFT販売の経費明細書を作成します。
経費に計上する金額は、③の譲渡代金を受け取り、経費を支払ったと考えるため220円です。
【NFT販売の経費明細書】
【④NFTを1ETHで販売。同時にガス代(販売手数料)0.15ETH支払(1EHT=250,000円)】
NFTを1ETHで販売し販売手数料0.15ETH支払った場合、イーサリアムスキャン上では、ETHの受取数量は0.85ETHです。
しかし、売上高は総額で計上しないと、手数料分だけ売上計上漏れになります。
必ず売上個別明細を確認し、売上代金総額(1ETH)を計上します。
よって差引受取数量ではなく、必ず売上高総額1ETH、手数料0.15ETHと処理します。
手数料については、②、③と同様に取り扱います。
この場合の手数料も、NFT販売に関する手数料として処理します。
【ETHの明細書】
そして別途、NFTの売上明細書を作成します。
売上高は売上総額1ETHで計上し、ETHの時価相当額と同額です。
【NFT売上明細書】
経費に計上する金額は、③の場合と同様に考えます。
【NFT販売の経費明細書】
上記がNFTの売上台帳と経費台帳となるので、確実に作成しておく必要があります。
【⑤NFT二次使用料0.15ETH受領(1EHT=270,000円)】
NFT流通に関する二次使用料は、受け取った時の時価を記載します。
【ETHの明細書】
そして同額がNFTの売上(収入)となり、売上明細に記載します。
【NFT売上明細書】
【⑥1ETHを日本円に換金(譲渡)(1ETH=300,000円)】
1ETHを日本円に換金(譲渡)したため、その時の時価(受取額)を記載します。
【ETHの明細書】
年間のETHの購入数量と購入金額、また売却数量と売却金額が算出されました。
総平均を利用する場合、これらの1年間の合計金額か必要になります。
暗号資産の記帳やNFTの記帳はこれで終了です。
記帳や明細書の作成が済んだ後、所得計算を行います。
暗号資産:雑所得の所得計算
先述のNFT販売や暗号資産の記帳より、暗号資産の所得計算を行います。
完成したETHの明細書から所得計算を行います。
【ETHの明細書】
暗号資産の譲渡収入は、上記ETHの明細書より337,930円です。
譲渡した暗号資産の売却原価は、平均購入単価×売却数量で計算します。
年間購入金額890,500/年間購入数量4.15=214.578円が平均単価となります。
【ETHの売却原価】
売却したETH1.152単位×平均単価214.578円=247,194円が、ETHの売却原価とされます。
③の手数料210円を記載して、暗号資産の所得計算は完了です。
暗号資産の雑所得(その他)は、売却収入337,930円-売却原価247,194円-手数料210円=90,525円です。
【ETHの所得計算】
NFTの販売:事業所得の所得計算
NFTの売上高は売上明細書より290,500円です。
【NFT売上明細書】
NFTの経費は経費明細書より37,720円です。
ここでは、ガス代のみ記載しています。
器具備品やスマホ、PC、ガソリン代なども必要に応じて経費計上可能です。
【NFT経費明細書】
NFT販売の事業所得は、売上高290,500円-経費37,720円=252,780円になります。
青色申告の場合は青色決算書、白色申告の場合は収支計算書を作成し、最終的に確定申告をします。
根拠法令
所得税法第48条の2(暗号資産の譲渡原価等の計算及びその評価の方法)
所得税法施行令第119条の6(暗号資産の取得価額)
まとめ
今回は、NFTを販売した場合の確定申告と所得の計算方法について、ザックリ説明しました。
納税者自身で集計等を行う場合、取引数量が多いと煩雑になりがちです。
また、暗号資産の自体の取引も頻繁に行う場合、確定申告が困難な場合も多々あります。
暗号資産関連取引を行う場合、日ごろから記帳を行う必要があります。