LGBTカップルの遺言公正証書の作成手順と注意点。

お互いが相続人に該当しないLGBTカップルの場合、財産を残すことはできません。

 

一緒に生活していても、いつ何どき何が起こるかわかりません。

 

大切なパートナーに、確実に財産を遺したい。

 

その為には、全部包括遺贈形式による遺言公正証書が必要です。

 

今回は、LGBTカップルの遺言公正証書の作成手順について、ザックリ説明します。

 

僕自身がゲイであり、13年間人生を共にする男性パートナーと公正証書を交わしています。

 

 

 

all paints by RYUSUKE ENDO

 

 遺言公正証書作成の流れ

LGBTカップルの場合、お互いがそれぞれ遺言公正証書を作成します。

 

遺言者AはBに財産を残す遺言、遺言者BはAに財産を残す遺言です。

 

 

 

 

 

 

お互いがお互いに財産を残すために、パートナー2名で公証人役場へ伺います。

 

ただし、1度の訪問では完結しません。

 

最低でも2回、公証人役場へ本人が直接訪問します。

 

遺言書公正証書の場合、代理人による手続きは不可です。

 

遺言公正証書作成の流れは以下の通りです。

 

 

① 最寄りの公証人役場へ電話

② 必要書類の準備・取り寄せ

③ 公証人役場へパートナーと訪問【第1回】

④ 公証人役場から公正証書原案送付・費用案内

⑤ 公証人役場へパートナーと訪問【第2回】

⑥ 自宅で公正証書(正本と謄本)を保管

 

 

公正証書は、公証人役場の公証人が証人2名に遺言内容を読み聞かせて成立します。

 

公証人役場に証人を依頼する場合、2度目の訪問は余裕をもって予定を組みます。

 

パートナーが会社員の場合、有給休暇等の兼ね合いがあるため、事前にスケジュール調整をしておきましょう。

 

①最寄りの公証人役場へ電話

まず最寄りの公証人役場へ電話をします。

 

そして、「遺言公正証書を作成したい旨」について伝えます。

 

電話をすると公証人役場から、「遺言公正証書作成に必要な資料」を教えてもらいます。

 

 

 

 

 

 

先方からは、「誰に財産を残すか?相続人(親族)か?第3者か?」と問われます。

 

電話口ではっきりと、「同性パートナーに財産を残したい旨」を伝えると、先方に理解してもらえます。

 

その際、必ず全部包括遺贈による遺言公正証書を希望する旨を伝えましょう。

 

そして、「公証人役場へ訪問する第1回目の日程予約」を行います。(必ず予約が必要です。)

 

パートナーと共に訪問する場合、お互いに訪問可能日を調整しておきましょう。

 

②必要書類の準備・取り寄せ

公正証書作成に必要な資料の準備・取り寄せを行います。

 

LGBTパートナーが遺言公正証書を作成する場合、以下の書類等を準備します。

 

 

A:戸籍謄本の写し

B:住民票の写し

C:印鑑証明書

D:運転免許証か健康保険証(身分証明書)

E:自身で作成した遺言書の原稿

F:遺言書に記載する預金(定期預金・積金証書を含む)の表紙と表紙の裏面、最新残高めページの写し

(ネットバンクの場合は預金取引履歴や残高証明書)

G:不動産がある場合は不動産登記事項証明書

H:株式等がある場合は直近の取引報告書や出資証券

 

 

A(戸籍謄本)、B(住民票の写し)、C(印鑑証明)は、市役所で発行又はマイナンバーカードでコンビニ発行可能です。

 

ただし、A(戸籍謄本)は、本籍地が他県の場合、コンビニ発行ができない場合が殆どです。

 

その場合、郵送により本籍地の市役所から取り寄せます。

 

A(戸籍謄本)の取り寄せは公正証書作成に関し、最も煩わしく腰が重たくなる要因です。

 

後述する土地家屋の登記簿とあわせ、早めに取り寄せ手続きが必要です。

 

 

 

 

 

 

E(自身で作成した遺言書の原稿)は、あくまで例を提示するだけです。

 

実際の公正証書は公証人が作成するため、印鑑等は不要です。

 

「全部包括遺贈」という文言を必ず入れるようにします。

 

 

 

 

 

 

FからHは、遺言書に記載する現状保有する財産を証明できる書類を用意します。

 

預金は普通預金、定期、ネットバンク等全てを含みます。

 

主な預金口座だけで可能ですが、現状の全ての預金を示す方が良いでしょう。

 

銀行名、支店名、口座名義人、残高を把握できるページの写しを用意します。

 

ネットバンクの場合、銀行名、支店名、口座名義人、残高を把握できるスクリーンショットか残高証明、取引履歴明細を用意します。

 

保有する不動産がある場合、不動産登記事項証明書を法務局から取り寄せます。

 

株式等がある場合、証券会社名、支店名、銘柄を把握できる取引報告書の写しを持参します。

 

暗号資産がある場合は、忘れずにその残高を用意しましょう。

 

これら以外の財産は、公正証書に記載される「その保有する一切の財産」に含まれます。

 

③公証人役場へ訪問【第1回目】

予約日にパートナーと共に、②の書類を公証人役場へ持参します。

 

公証人役場では担当の公証人が1名つき、説明・準備を進めてくれます。

 

担当公証人から書類をチェックしてもらい、不足しているものがあれば、再度持参するかメールで送付します。

 

公証人から公正証書の内容や提出した資料について、その場で質問や確認を受けます。

 

 

 

 

 

 

問題がなければ、料金等や今後の流れについて説明を受けます。(※通常は問題になるようなことはありません。)

 

単純な包括遺贈による遺言公正証書であるため、通常はそれ程時間がかかりません。

 

なお、遺言執行者を誰にするか問われます。

 

遺言執行者とはパートナーが死亡後、金融機関へ訪問するなど、財産の処分を行う者です。

 

当然ながら、財産を残すパートナーを指定しましょう。

 

そして提出した資料を元に、公証人が公正証書の原案作成に入ります。

 

原案はメールや書留により受け取ります。

 

原案をいただく時期や概ねの費用の額を聞いて、第1回目の打ち合わせは終わります。

 

④公証人役場から公正証書原案送付・費用案内

1週間程で、公証人役場から公正証書の原案と料金が届きます。

 

料金を確認して、第2回目までに準備をしておきましょう。

 

原案を確認して問題が無ければ、電話で第2回目の訪問予約を行います。

 

 

 

 

 

 

料金は、「基本料金」、「遺言加算」、「用紙代」、「証人手配手数料」の4項目です。

 

以下は全て1人当たりの料金です。

 

「基本料金」は、公証人役場へ持参した各人の財産の価格により異なります。

 

例えば、財産が500万以下の場合11,000円、1,000万円超~3,000万円以下の場合23,000円、3,000万円超~5,000万円以下の場合29,000円です。

 

詳細は、各地域の公証人役場のHPから確認可能です。

 

また、財産の価額が1億円以下の場合、「遺言加算」が11,000円必要です。

 

そして公正証書の「用紙代」が3,000円、「証人手配手数料」が10,000円かかります。

 

僕がパートナーと作成した時の料金は、証人2名の手数料を含み、2名分で約90,000円でした。

 

クレジット払いを希望する場合、予め公証人役場へ連絡をする必要があります。

 

公証人役場へ訪問【第2回目】

第2回目の訪問時、公証人が証人2名に対し、遺言内容を証明します。

 

2回目の訪問時は、以下を持参します。

 

 

① 公正証書作成料金

② 運転免許証

③ 実印

 

 

公正証書は原本(公証人役場保管用)、本人用(正本・謄本)の合計3部作成されます。

 

遺言者(この場合は僕)は、財産を遺す人(パートナー)の氏名、生年月日、住所を言います。

 

そして公証人が、証人2名に遺言内容を読み聞かせます。

 

何事もなければ、原本(公証人役場保管用)に遺言者(当事者)が署名、押印を行います。

 

そして証人2名、及び公証人が署名、押印を行います。

 

 

 

 

 

 

そして公証人から公正証書に関する説明を受けます。

 

公正証書原本(公証人役場保管用)は、公証人役場に保管されます。

 

遺言者は公証人から正本と謄本の交付を受けます。

 

正本・謄本は、署名が印字されており、捺印は「印」と表示されています。

 

最後に公正証書作成費用を支払い、正本と謄本をいただいて公正証書作成は終了です。

 

 

 

 

 

 

公正証書作成自体は、何ら複雑なことはありません。

 

手数料はかかりますが、確実にパートナーに財産を遺すため、公正証書作成をお薦めします。

 

⑥自宅で公正証書(正本と謄本)を保管

公正証書は自宅で保管することが必須です。

 

絶対に貸金庫に入れてはいけません。

 

パートナーが亡くなった場合、貸金庫を開封するためには、公正証書が必要だからです。

 

 

 

 

 

 

また、お互いがそれぞれのパートナーの公正証書を保管します。

 

自分で自分の公正証書(遺言書)を保管しても仕方がありません。

 

なお、金融機関などの遺言相続手続きをする際、主に正本が使用されます。

 

公正証書の保管期限

公正証書の保管期限は、通常20年とされています。

 

ただし、僕が公正証書を作成した時の年齢は39歳。

 

59歳の時に生存している可能性が高いです。

 

そのため、140歳になるまでは、公証人役場で保管されるようです。

 

また、同意をすることでクラウド上にも保管されます。

 

万が一、公証人役場が災害により焼失した場合でも、消滅することはありません。

 

公正証書は全部包括遺贈で作成する

LGBTカップルの場合、必ず全部包括遺贈により遺言を作成します。

 

全部包括遺贈は、いわゆる「全ての財産を〇〇へ遺す。」ということです。

 

LGBTカップルの場合、ある特定の財産をだけを遺すことはできません。

 

ただし、「全ての財産を〇〇へ遺す。」という文言の財産には、マイナスの財産を含みます。

 

即ち、借金も遺すということです。

 

目下、多額の借金がある場合や、将来借金の予定がある場合、事前に話し合うことが必要です。

 

根拠法令

民法第951条(相続財産法人の成立)

民法第952条(相続財産の管理人の選任)

民法第964条(包括遺贈及び特定遺贈)

民法第990条(包括受遺者の権利義務)

まとめ

今回はLGBTカップルの遺言公正証書について、ザックリ説明しました。

 

遺言公正証書の作成は、全く難しくありません。

 

難しい部分は、「作成しよう!公証人役場へ電話しよう!」と最初に奮起するだけです。

 

面倒なことは公証人役場が行うため、当事者は必要書類の準備とスケジュール調整だけです。

 

LGBTカップルは、所得税や相続税法上における、税法上の恩恵はありません。

 

だからこそ、確実にパートナーに財産を残すために、遺言公正証書を作成しておきましょう。