LGBTカップルと通常の夫婦間の相続税額の比較。LGBTカップルの相続は相続税額が多額になる。
LGBTカップルの避けられない問題として、相続税の申告があります。
公正証書遺言により、同性パートナーにも財産を遺す事が可能です。
親族が兄弟のみの場合、兄弟に遺留分はなく、全ての財産をパートナーに遺すことが可能です。
ただし、同性パートナーの場合、税法上の特例はなく、相続税額が多額になる傾向があります。
今回は、LGBTカップルと通常の夫婦間の相続税額について、ザックリ比較します。
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相続税法上の各種特例
相続税法上では、配偶者や相続人、法定相続人(以下、相続人等)に、各種特例が設けられています。
各種特例とは、遺産の価額を減額する特例や、相続税額そのものを減額する制度です。
主な制度は以下の通りです。
・生命保険金・退職手当金の非課税限度額
・特定贈与財産(贈与税の配偶者控除)
・特定贈与財産の生前贈与加算不適用
・小規模宅地の特例
・法定相続人の数に応じた基礎控除
・配偶者に対する相続税額の軽減
上記は配偶者や相続人等に適用されます。
民法上の相続人に該当しない同性パートナーに適用されません。
また、同性パートナーが遺産を相続した場合、相続税額は1.2倍になります。
そのため、予め相続税額を試算し、ザックリした相続税額を知る必要があります。
なぜなら、相続税は現金一括納付だからです。
以下、LGBTカップルと通常の夫婦間の相続税額について、ザックリ比較します。
それぞれ遺産を相続する人は、配偶者1名のみ。同性パートナー1名のみを前提としています。
LGBTカップルと通常の夫婦間の相続税の比較
以下、簡単に相続税額の比較を行います。
夫が死亡して相続人が妻1名のみの場合(以下、異姓間)。
パートナーが死亡して相続人なし。一方のパートナーが相続した場合の税負担額の比較です。
相続財産は現金預金5,000万円と生命保険金500万円です。
これらの場合、どの程度納税額に差が生じるのか検討します。
まず現金預金を取得した場合、異姓間、同性間にかかわらず、相続財産評価額は5,000万円です。
※以下の表の⑦=④-⑤-⑥となっていますが、正しくは⑦=④-⑤+⑥です。(後日訂正します。)
次に生命保険金を取得した場合、生命保険金の非課税限度額【500万円×法定相続人の数】を計算します。
異姓間の場合、非課税額は、500万円×法定相続人の数(配偶者1名)=500万円です。
一方、同性間の場合、同性パートナーは法定相続人に該当しないため、非課税額はありません。
ここまでで相続財産の合計額が算出されました。
次に遺産の基礎控除額【3,000万円+600万円×法定相続人の数】を計算します。
異姓間の場合、相続税の基礎控除額は、3,000万円+600万円×法定相続人の数(配偶者1名)=3,600万円です。
一方、同性間の場合、3,000万円+600万円×法定相続人の数(0名)=3,000万円です。
(※相続人や法定相続分がいない場合を仮定しています。)
これで課税される遺産合計額が算出されました。
異性間と同性間においては、課税遺産総額に1,100万円の差があります。
次に相続税額を算出します。
相続税の速算表より、相続税額を算出します。
異姓間の場合、相続税額は1,400万円×15%-50万円=160万円です。
一方、同性間の場合、相続税額は2,500万円×15%-50万円=325万円です。
異性間と同性間において、相続税額に165万円の差があります。
次に税額控除を計算します。
配偶者の場合、相続で取得した遺産金額が法定相続分まで or 1億6,000万円までの場合、相続税額はかかりません。
上記の場合、配偶者が取得した相続財産は5,000万円です。
法定相続分(5,000万円×1/1)の範囲内であり、また1億6,000万円までであり、相続税額は0円です。
一方、同性間は民法上の配偶者に該当しないため、相続税額の軽減規定はありません。
次に、相続税の2割加算の計算です。
配偶者、子供、両親以外の直系血族が相続した場合、相続税額は1.2倍になります。
同性間の場合、赤の他人に該当するため、相続税額は1.2倍になります。
パートナーの相続税額は、325万円×20%=65万円増額されます。
上記で納付すべき相続税額が算出されました。
最終的な納税額は、異性間の場合0円、同性間の場合390万円です。
同性間の場合、税法上の特例・優遇措置が一切ないため、相続税が多額になります。
対処法
同性間の場合、現行の法令が変化しない限り、相続税が多額になります。
相続税の納付に備え、可能な限り相続財産は、現金や容易に換金可能な株式等にしておく必要があります。
自宅以外の不要な土地・家屋は、相続しても迷惑なだけです。
相続したパートナーが売却した場合、譲渡所得税が課されるからです。
また、不要な固定資産税等や維持管理等も必要です。
パートナーのその後の生活の糧を遺すためにも、固定資産よりも、現金預金を遺すことを念頭においておきましょう。
根拠法令
相続税法第12条(相続税の非課税財産)
相続税法第15条(遺産に係る基礎控除)
相続税法第17条(相続税額の加算)
相続税法第19条(相続開始前三年以内に贈与があつた場合の相続税額)
相続税法第19条の2(配偶者に対する相続税額の軽減)
相続税法第21条の6(贈与税の配偶者控除)
まとめ
今回は、LGBTカップルと通常の夫婦間の相続税額について、ザックリ比較しました。
あくまでも、相続人が配偶者のみ、遺産の取得者がパートナーの場合です。
しかし、現行の法令上、同性パートナーには税法上の軽減措置はありません。
同性間で遺産を遺すのであれば、ある程度の年齢になったら、相続税額がザックリでいいので、試算することをお薦めします。